いつも同じところにできるしこり『乳瘤』

「おっぱいにしこりがあるんです！
ずっと同じところにあるのですが・・・
ガンじゃないでしょうか？」

よくある質問です。

授乳中のおっぱいの膨らみの中は
どのような構造になっているのかというと。

丸い膨らみのなかには
母乳が作られるぶどうの房のようなものがいくつも存在します。

ぶどうの１粒ずつを「腺房」といいます。
腺房がたくさん集まったものを「乳腺小葉」といいます。

乳腺小葉からは管（乳管）が乳頭に向けて
つながっています。

そして１粒のぶどうの皮にあたる部分、
つまり腺房の外側は
ま～るく筋肉で囲まれています。

赤ちゃんが乳頭を吸うと
その刺激で母体の脳からオキシトシンという
おっぱい噴射ホルモンが分泌されて
腺房を囲む筋肉を収縮させ
中に溜まっている乳汁を
乳管に向かって勢いよく押し出す役目を果たしています。

筋肉によって
噴流となって乳管側へと押し出された乳汁は
乳頭から元気よく排出されます。

赤ちゃんが吸ってくれない・・・
つまり授乳間隔をあけすぎると
オキシトシンが分泌されないので
乳汁は腺房内にどんどん溜まってしまいます。
（母乳のうっ滞）

オキシトシン反射を受けない状態でも
溜まった古い母乳はじわじわと乳管のほうへと
移動していくのですが、

そのような状態で放置していると、
母乳の水分だけが組織に再吸収され
次第にドロっとした性状に変化していきます。

水分の抜けたとろみのある母乳は
時間がたつにつれ細い乳管腔を流れにくくなっていきます。

早期対処で頻回授乳をして
オキシトシン反射を促せば
腺房を取り囲む筋肉の強い収縮によって
ちょっとぐらい粘度の高い母乳でも
どうやらこうやら流れるので大事には至りません。

ですが、
あまり授乳をしないで放置する、を繰り返すことで
腺房から乳管にかけて存在するとろみ母乳が
風船のような袋状（のう胞）になって貯留するように
なってしまいます。

つまり、母乳のうっ滞をそのままにしておくと
溜まったとろみ母乳がのう胞になって
慢性的に排出されにくくなり
乳腺（腺房＋乳管）自体が硬く変性してしまうのです。

これを「乳瘤」といいます。

授乳中に触れるしこりは、
基本的に、分泌される母乳のうっ滞によって起こります。

母乳が液体として貯留しているだけのしこり（うっ滞）は
飲んでもらえばすぐに消えますが、

しこりがいつも同じところにあって、
そこを圧迫しながら搾ってみると
練乳のような濃い乳汁がジワっとにじんでくるようなら
乳瘤を形成している可能性が高いです。

いったん乳瘤になってしまうと
大きくなったり小さくなったりはしても
自然に完全に除去されることはなかなか難しく、
それを乳がんと勘違いしてしまうことが多いようです。

ちなみに乳瘤自体は
乳管にできた良性ののう胞であり、
濃縮した母乳が貯留しているだけなので
ガン化することはありません。

ただし、乳瘤は乳管を圧迫し、閉塞させてしまうため
授乳中は乳腺炎などのおっぱいトラブルが
起きやすくなるので注意が必要です。

完全に乳瘤のしこりを取り去るには、
外科的に除去するしか方法はないのですが、

おっぱいトラブルが頻発するようなことがなければ
そのまま放置していても大丈夫。

ただ、触るといつもしこりとして触れるので
女性としては、
なんとなく落ち着かないし、モヤモヤするかもしれませんね。

乳がんのしこりは、ゆっくり着実に大きくなっていきます。
場所は絶対に変わらず、
小さくなったり柔らかくなることもありません。

乳瘤は押して痛いことも多いですが、
乳がんのしこりは痛くないのも特徴です。

とはいえ、症状だけで
乳がんなのか、乳瘤なのか
触っただけで確実な診断はできません。

エコーで見てもらえば
どちらか簡単にはっきりするので
不安なときは乳腺外科を受診しましょうね。

「昨日、暴飲暴食したから
詰まったんだと思います」

そう訴えてばぶばぶに駆け込んでこられるママが
多いですが、

母乳のうっ滞は
食べものの影響というよりは、
『オキシトシン反射が有効に機能していない』
ことが原因の場合が多いように思います。

カロリーの高いものを食べたときは
いつも多めに母乳が作られるのは確かです。

そのぶんしっかり
赤ちゃんに飲んでもらうようにしましょうね。

●授乳の間隔をあけすぎていないか？
●吸わせ方の姿勢が不安定ではないか？

食べたものを後悔するより、
考えるべきは、上記２点ですよ！

母乳のうっ滞は、乳腺の生理的変化だから
問題ありません。

ただ、
そのまま放置して乳瘤を作ってしまわないように
早めの対処を心がけましょう。