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2019.11.11

産婦人科医ママだってヘコむんだ(赤ちゃんの体重増加)

退院と同時に
ばぶばぶに来られたくーちゃんのママ。

産褥早期から母乳分泌の勢いがよすぎて
需要と供給のバランスがとれず
生まれたばかりのくーちゃんには
ママのおっぱいを飲みこなすことができませんでした。

ゆっくり飲みたいのに
口の中に流れ込んで来る濁流に
くーちゃんはたびたび溺れてしまうありさまでした。

嫌がって泣き、
苦しくて暴れ、
母乳と一緒に大量に空気を飲んでは吐いてしまいます。

こんなによく出るおっぱいなのに
結果、哺乳量につながらないという悪循環でした。

乳腺炎にならないよう
無理のないペースでの片乳授乳で
分泌量調整をしながら

くーちゃんの哺乳力が追いついてくるまでは
直母+搾乳をアドバイスしながら
継続的支援をしていきました。

ママががんばってくれたおかげで
生後2ヶ月には搾乳をストップ、
直母だけで大丈夫になりました。

生まれたときくーちゃんは
平均的な3000gでしたが
ゆっくり体重が増えていくタイプの赤ちゃんでした。

おっぱい足りてますか?
このやり方で問題ないですか?
本当に大丈夫?

排泄も順調。
表情豊か、手足を活発に動かし、元気に泣き、
顔色良好、肌ツヤもよし。
発達順調も問題ナシ!

ばぶばぶに来るたび
「総合的にみて大丈夫!」
太鼓判を押し続けました。

3ヶ月健診では5200gでした。

小児科の診察では、

「まぁちっちゃめだけど発達もしっかりしてるし
OKですよ」

ですが
診察介助の保健師が横からすかさず
口を挟んできました。

「先生、ダメですよ!
こんな体重の増え方じゃ話にならないでしょ?
ちゃんと体重のこと、指導してくれないと困りますっ!」

小児科医は苦笑しながら

「う〜ん・・・大丈夫だと思うけどねぇ・・・」

さらに上乗せするように
保健師はくーちゃんママをまくしたてました。

「体重少なすぎます!
飲めるだけ毎回、ミルク足してください。
2週間後に電話しますので。
出てくださいよ!」

実はくーちゃんのママは
産婦人科医なんです。

(産科医は小児の栄養法、
発育評価に関しては専門外。
実はまるで知識がありません^^;)

医療従事者であっても、
一般のママと同様に
わが子のことになると敏感です。

一生懸命、試行錯誤しながら
今日まで育ててきたからこそ
保健師さんの言葉は
彼女の心に鋭く突き刺さりました。

赤ちゃんの発育を評価する上で
体重は確かに重要な指標のひとつです。

数字で明確に表されるため
必要以上に意識してしまうことが多く
標準値、平均値に惑わされ、
ほかの赤ちゃんとも比較して
一喜一憂してしまいがち。

赤ちゃんの発育には個人差があります。
ゆっくりと体重が増える赤ちゃんは
珍しいことではないのですが

体重の増え方がゆっくりだというだけの理由で
集団健診でとことんまでヘコまされ
ダメママのレッテルを貼られてしまった話は
しょっちゅう聞きます。

過去のブログでも
繰り返し書いてきたことですが

育児支援者がママに関わる中で
何があろうとも絶対にハズしてはならないのは
『ママが赤ちゃんの成長を再確認できること』
だと思います。

相手の育児法にたとえ
改善した方がいいトコロがあったとしても

ただ粗探しをするのではなくて
ママががんばっている事実を
まず肯定し、共感し理解し
不安に耳を傾けながら言葉を選んで丁寧に
ほめちぎるスタンスが基本中の基本!

上からではなく、
一緒に問題解決の方法を考え、
科学的エビデンスの元に、ママがしっかりと
納得のできるような方向性の提示を
行うべきだと思うのです。

ママを否定しない。
赤ちゃんを否定しない。

それは、育児法の方向転換を
すんなり受け入れてもらうための
スタートラインです。

「健診に行ってよかった!」と
ウキウキして帰れるような
対応があってしかるべきなのです。

そもそも、体重の値だけを用いて
発育評価を行うのは間違っています。

WHOの『子どもの成長の評価ガイドライン』では
1つだけの計測項目だけではなく
少なくとも身長・体重・頭位、

出生体重、出生週数、栄養法、
活発でよく動くな子なのか
おっとりした子なのか、
よく泣くのかあまり泣かないのか、
・・・など赤ちゃんの状態(個性)、

それぞれの値の評価と相互関係の評価

赤ちゃんの発育は、
総合的にたくさんの情報から
評価されるべきだと書いてあります。

健康なんだけど、
ゆっくり大きくなる赤ちゃんと、
早急な医学的対処が必要な赤ちゃんを見分けるには
どこに着目すればいいのでしょう。

定期的な体重測定を軸として、
以下の項目に着目し、
総合的に評価します。
(日本小児科学会雑誌115 健診における栄養評価・母乳育児支援より)

=================================
==医療介入が必要な体重増加不良(病的)==

・反応が乏しい
・ずっと泣いている
・筋緊張不良
・肌のハリの低下
・おむつがあまり濡れない
・濃いおしっこ
・うんちの回数、量が極端に少ない
・8回以下の授乳回数
・授乳時間が短い
・射乳反射がうまく出現しない
・体重は安定して増加せず減ることもある
・月齢相当の発達から遅れている

==単にゆっくり大きくなる子(健康)==

・覚醒して活気がある
・筋緊張良好
・肌にハリがある
・少なくとも1日に6回以上のおしっこ
・薄くサラサラしたおしっこ
・うんちは苦痛なく出て機嫌がよい
・授乳時間は15~20分
・射乳反射が良好に出現
・体重増加は着実にあるがゆっくり
・月齢相当の発達が認められる
================================

赤ちゃんの体重増加には
家族性や遺伝性の因子の関与も指摘されているので
両親、兄姉が赤ちゃん時代にどのような
体重の増え方をしていたか、パパママの体型などを
確認することも大切な情報です。

でも・・・

家族性や遺伝性、
どんなにママがそれを主張しても
保健センターでは見向きもしてくれなかった・・・
という話が多いこと!

体重増加不良の評価にあたり、
これってめっちゃ大事な情報だと思うんやけどな~。

右下がりにはならないけど、ほとんど増えずに
平行に推移する場合

とくに母乳で育っている子の場合、
健康でゆっくり体重が増えていても

集団健診では画一的に

「標準値に比べて○g軽い!」
「1日に○gしか増えていない!」
→ミルクを足してください!

などと指導されることも少なくありません。

生後4ヶ月頃までの発育が急で、
その後ゆるやかになっていく『平凡型』

マラソンで初めの発育は平凡型よりさらに急で
途中からパタリと止まり、横ばいになるタイプ『立ち上がり型』
このタイプは、母乳やミルクの飲みがよく、
離乳食が始まる頃に成長が落ち着きます。

初めは緩やか、
途中から追い込みをかける『追いつき型』
くーちゃんはこのパターン。
「健康なのに体重が増えない赤ちゃん」
に相当するのかなと思います。

このような赤ちゃんは
生まれてしばらくはあまり飲む量が少なく
ちょっと不安になりますが、

離乳食を食べ始めてしばらくすると
びっくりするほどたくさん
食べるようになることがあります。

それで体重が一気に伸びる子もいれば、
食べるのに相変わらず増えない子も。

結局は個性ですよね。

もちろん、
すべてをふまえて適切に評価できる
支援者もたくさんいらっしゃるとは思うのですが、

このような赤ちゃんの発育の特徴を
指導者が知らないと
その月齢の標準体重に当てはめて
たったそれだけでとんでもない保健指導を行い
ママを不安のどん底に陥れることに
なってしまいますね・・・。

身長と頭位も、赤ちゃんの発育の評価では
とても重要です。

低栄養の影響は、
体重→身長→頭位
の順で現れます。

元気にしていて、身長、頭位も問題なくて
ただ体重だけ伸びが悪い場合は、
しばらく様子をみていいと思います。

体重だけではなく、
身長の伸びが悪くなってきたら
対処を検討する必要があります。

頭囲の発育は中枢神経系の発育を反映します。
月齢相当の発達
(首のすわり、寝返り、目の輝き、喃語の出現など)
があるかどうかに着目するのは必須です。

母子手帳に載っている発育曲線は
たくさんの赤ちゃんのデータの平均を
グラフに示しているので
発育曲線のカーブ(角度)そのものは
それなりに発育の目安として
信頼できるものだと考えます。

ですが「○ヶ月」というある1点で
体重や身長が帯のどのあたりにいるかは
気にしなくていいのです。

数ヶ月単位で
赤ちゃんの発育を記入していったときに
発育曲線のラインよりも大きくはずれて、
まったく横ばいのままとか体重が減ってくる曲線に
なったときには注意深く観察する必要が
あるでしょう。

帯からははずれているけれど、
発育曲線のカーブにそって
身長も体重も頭位も増えているのなら
それが「その子なりの発育」。

保健指導者は
赤ちゃんの正常な発育経過や
身体発育の適切な評価方法の知識を持つことにより、
一人一人の状況に応じた
細やかな保健指導・栄養指導で
ママを勇気づけ安心させてあげられる能力が
問われます。

今、赤ちゃんがどのようであるのか、
筋道立てて、
根拠のある説明ができ、

その内容をしっかりとママに理解してもらうことで
安心が生まれます。

それを軸に、具体的な対処法をアドバイス。
常に「そうすべき理由」を明確に
答えられるように準備する姿勢。

すべての保健指導は、
ママを納得させてこそ、
育児不安の軽減に貢献できるのです。

くーちゃんは小柄だけど
ちゃんと育っています!

保健師は
「ミルクを飲めるだけ足せ」っていうけど、
そんなことしたら
くーちゃんママの分泌過多気味おっぱいは
炎上してしまいます。

高熱が出て、
乳房の激痛で子育てどころじゃなくなりますが、
それでいいのでしょうか?

「赤ちゃんの体重を増やすためなら
他のすべてを犠牲にしてもよい」

そんな考え方は
アンバランスすぎますね。

赤ちゃんの成長も、ママの心も
同じぐらい大切だって
教科書にも書いてあるはずなのに、
どうして現場の指導者は、
そのもっとも大切なところが
見えなくなってしまうのでしょう。

そもそも
エビデンスの出どころがわからない指導は
あってはなりません。

科学的知識の上に
ママの心に寄り添った温かい支援

今の日本の育児支援には
もっとも大切なことが
絶対的に不足していると思います。

だから、
世の中のママたちが
どんどん追い詰められていくねん・・・
何やってんねん、ほんまに〜!

あ。暴言吐きました。
ごめんなさい^^;

少なくともくーちゃんのママは
産婦人科医として復帰したときには
人の心を汲める
素敵なお医者さんになるだろうなと思います!

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